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年金の誤解―無責任な年金批判を斬る

年金の誤解―無責任な年金批判を斬る

人気ランキング : 140,987位
定価 : ¥ 1,890
販売元 : 東洋経済新報社
発売日 : 2005-02

価格 商品名 納期
¥ 1,890 年金の誤解―無責任な年金批判を斬る 通常24時間以内に発送
出版社の意図は?

内容もさることながら、疑問に思うのは出版社の意図だ。本書でもっぱら批判対象となっているのは、年金分野で著名な国立大学教授の研究内容である。この国立大学教授も、同じ出版社から年金をテーマとした「信頼と安心の年金改革」という本を出したばかりである。出版した矢先から「誤解」「無責任な批判」「斬る」と断じるような本であれば、出版社は、わざわざ「信頼と安心の年金改革」を出さなければ良かったであろう。あるいは、既に自社から出している本を「誤解、無責任」と罵るような著者には書かせなければいいのではないか。何のポリシーもなく、喧嘩(論争ではなく喧嘩。政府資料の鵜呑みで、論争になどならない)をしかけて、話題ができて、それで2冊とも売れてくれればいいということなのか。

一流の分析、1年前に出版されればもっと良かった

 社会保障審議会年金数理部会は公開セミナーを行っているが、そこでの堀教授の発言の含蓄が深かったので、本書を買った。読了して期待にたがわず大変勉強になった。年金制度の経緯を良く知っている点、諸外国の事情を良く知っている点、そして年金以外の社会保障の知識に詳しい点、分析が鋭い点で、類書から頭一つ抜けている。
 本書は公的年金改革に対する誤解・俗説・中傷への反論からなっているが、2004年の公的年金改革の意義がよくわかる。また国民年金は応益負担、厚生年金は応能負担など現行制度の整理がよくわかる。その他、確定拠出・積立方式の企業年金に触れて「リスクを取りたくないサラリーマンにとっては、迷惑この上ない仕組みである。」と言い切っている点等おもしろかった。
 それにしても不勉強な学者やマスコミが公的年金バッシングを始める前に本書を出して欲しかった。審議会で忙しかったのかもしれないし、立場上言いにくいこともあったのかもしれないが、対談形式でも出版されていれば、国民の公的年金に対する不信を防止するためにどれだけ役に立ったかと惜しまれる。

与党の理論

年金制度は年金を運営する側(政府側)からの理論だけでなく、広く国民が合意しなくては成り立たない。国税庁より社会保険庁の方が財源を集めるのに効率的だと言うのは甚だ残念だ。厚生年金にしろ会社が源泉徴収した保険料が口座引き落としで簡単に国に入るのが大部分であろう。大企業・中小企業の社会保険適用逃れがあっても摘発すら行われていない。国民が信頼して保険料を払い込む年金制度の設計図は国家観や自分の置かれている貧困度でそれぞれ異なる。誰が誤解し、誰が無責任か判らないが本当は著者かもしれない。そうでなかったら年金がこんなに問題にならない。

正当な批判と経済音痴と

筆者は法学をベースにおく研究者としては自他共に認める「年金の鉄人」であり、社会保障分析を生業とする者ならば誰もが一目置く存在である。マスメディアでは経済学の世界における「年金の鉄人」高山教授を高く持ち上げるが、実は高山氏の「600兆円の債務超過」論は経済学者の世界でも必ずしも評価は高くない。本書はその高山氏の論説を主な矛先に展開されており、高山氏の主張が実は非常に過激で矛盾している部分が多いという指摘にはうなずけるものも多い。また年金純債務600兆の主張についても、多くの経済学者が首を傾げる点を法学者である筆者が小気味よく糾弾している点もおもしろい。
ただし、議論の要所要所で筆者の経済学音痴ぶりが本書の評価を著しく低めている。厚生年金保険料の半分は事業者負担であるから年金はお得な制度であるなど、経済学を少しでも学んだことのある者なら目がテンになるような主張を平然と主張してしまうことが惜しまれる。
いずれにせよ、本書はメディアにあふれている年金批判の多くの誤謬を指摘している点において貴重な一書であり、そのすべての主張を受け入れることはできないが、高山氏のベストセラー本と併読すれば年金問題の論点がかなり整理できるであろう。「法学は制度を運用していくための学問。経済学は制度を構築するための学問。」という言葉があるが、依って立つ学問の性質の差異が同じ問題を取り上げさせても論調が異なることを確認できるはずである。
評価としては、迷うところだが、内容の貴重さと高山氏の本と差をつける理由がないことから四つと判断。

著者自身が批判対象を理解していない

2004年6月に年金改正法が可決するまでの間、年金改革は国民の大きな関心事となった。
本書では、バランスシート、世代間格差、空洞化など10の論点に関する代表的な主張を取り上げ、それらに対して、著者が批判を試みている。しかしながら、そもそも批判となっていない。その理由の1つは、著者がバランスシートや世代間格差などを自ら試算したことは恐らくなく、さらには、それらの考え方や試算方法を理解していないと思われることである。自ら試算したこともなければ、試算の持つ含意や厚労省試算のおかしさなどはそもそも分からないであろう。自身が分からないものを批判対象としていいのであろうか。2つめは、年金改革の議論を時系列でウォッチしていないことである。例えば、政府の改革案も2002年12月に原案が出されて以降、何度か変わっており、本書で批判の対象となっている各論者も、その都度、是々非々で評価を行なっているはずだ。本書では、それらが全て捨象されてしまっており、与党対野党のような単純な図式に塗り替えられてしまっている。各論者の名前をあげて批判する以上、各論者の著書や論文を追うという最低限の作業を行うべきであろう。3つめは、政府や法律こそが正しいというスタンスが強く見受けられることである。しかしながら、法律が人々の考え方や現実の経済に合わなくなっていることもある。その乖離をみつけ、埋める作業が不可欠なはずである。結局、批判が有効な批判になっているようには思えず、著者の批判的な語り口だけが印象に残る。
社会保障審議会委員、年金部会委員、年金数理部会部会長という要職にある人の能力や考え方を知る「史料」として手にとる意味もあるのかもしれない。


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